【セルフインタビュー】あさはかな夢みし(藤原尊子・後編)
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中央が尊子。『あさはかな夢みし』では、他人になかなか心を許さないツンデレ妃として描かれている。
ーーさて、一条天皇の妃としては「蚊帳の外」の尊子さんですが、彼女の生い立ちから見てみましょうか。
瀧波:実はね、血筋は非常に高貴なんですよ。父親は藤原道兼。道長のお兄さんです。
ーーえっ。じゃあ、彰子さんとはいとこ同士ですね。
瀧波:なお、定子さんの父親も道長のお兄さん(道隆)。つまり、定子・彰子・尊子は父方のいとこ同士ということになりますね。
ーーつまり、それぞれが娘をぶっこんだ…いえ、嫁がせた結果ですね。
瀧波:でも尊子は、ちょっと事情が違うんです。尊子が嫁いだ時には、道兼はもう亡くなっていたし、そもそも道兼から実の子として扱われてはいなかったという説があります。
ーーあらっ。
瀧波:尊子の両親のことから説明していいですか?
ーー長くなりそうでちょっと心配ですが、お願いします。
瀧波:なるべく手短かにいきますね。実は尊子のお母さんの藤原繁子は、一条天皇の母・詮子に仕えていた女房で、一条天皇を育てた乳母の一人でもあったんです。
ーーえーと、それってかなりエリートなキャリアウーマンって感じですか?
瀧波:そうですね。枕草子にも名前が出てくるレベルです。で、道兼と良い仲になって尊子を産んだんですが、道兼は尊子にはまるで無関心だったようです。
ーーなぜ?
瀧波:それはよくわからないのですが…道兼は、当時の記録によるとかなり容姿が悪かったらしいんですよ。
ーーはあ。なんというか、1000年後にまでそれ伝わっちゃうってイヤですね。
瀧波:で、生まれてきた尊子が父親似だったから、「これでは出世のために使うのはムリだろう」と道兼が思って見放した、という説が…。
ーーええ!?!?
瀧波:女をなんだと思ってるんだという話ですが。とはいえ、ここで挙げるのは私がいろいろ調べて出てきた中の、確証のない説のひとつなので。尊子のことを不器量と決めつけるのはちょっと待って!
ーーまあ、ブサイクな父親を持つ娘なんていっぱいいるけど、みんなが父親の生き写しってわけじゃないし、そうだとしても何とか工夫して生きてますもんね。
瀧波:それな。
ーーほんとそれ。
瀧波:で、父・道兼が亡くなったあと、母・繁子は尊子を妃として一条天皇のところにぶっこむんです。
ーーよくぶっこめましたね。
瀧波:乳母の立場とかいろいろ利用して。繁子はそうとうなやり手で、道長とも仲が良く、うまく取引していたらしいです。
ーー娘を嫁がせるのは、何か狙いがあったんですか?
瀧波:娘の安定した生活のためとか、自分の娘が天皇の妃だっていう箔のためとか、そんな感じかもしれませんね。
ーーでも…結果として、尊子は蚊帳の外になっちゃうんですよね?
瀧波:はい、全然、一条天皇から興味を示されなくて。そこでまた「尊子は道兼似だから…」という説が出てきちゃうんですけれども。
ーーまたブス説!?
瀧波:それと、もうひとつ笑ってしまったのが、「尊子が母の繁子に似過ぎていたから、一条天皇は自分の乳母を抱くような心持ちがしてしまい、尊子を女として見れなかった」説…。
ーー親のどっちに似てもダメってことですか。詰んでる!てゆーか、だったらなぜ一条に嫁がせた!?
瀧波:まあまあ。でもね、私は、尊子が一条天皇と仲良しになれなかった理由って、父親似のせい・母親似のせい、どっちでもないと思ってるんです。
ーーまったく別の理由が?それはなんですか?
瀧波:暗かった。
ーーく、暗い…?
瀧波:はい。ぶっちゃけ女の器量なんて、どうにでもなるんですよ。かわいく見せる方法いっぱいあるし。
ーーよくわかります。よく、わかります。
瀧波:でも、性格が暗いのって、ごまかせないじゃないですか。
ーーですね。
瀧波:尊子は引っ込み思案で無口でおとなしい、外から見ると「暗い」性格だったんじゃないでしょうか。賢くて明るい定子を愛する一条天皇からすると、すごくつまらない女に見えたんじゃないかと。
ーーなるほど。あ!そういえば、尊子の通称って…
瀧波:「暗部屋の女御」。
ーーそもそも暗部屋ってなんですか?
瀧波:暗部屋とも暗戸屋とも書くのですが、こういう名前の部屋は後宮にないんですよ。
ーーそうなんですか?当時の妃って「弘徽殿の女御」とか「承香殿の女御」とか、住んでる殿舎の名前で呼ばれてたんですよね?
瀧波:はい、弘徽殿も承香殿も実在するんです。でも、暗部屋は無い。
ーーあったとしても、ろくな部屋じゃないですよね、暗部屋…。納戸とか…。
瀧波:だからこれ、周囲が尊子をバカにする目的で作ったあだ名なんじゃないかなって思って。
ーーああ、「あの暗い人は暗い部屋にこもっている、だから暗部屋の女御ね〜♪」みたいな?
瀧波:そうそう。そう言われるほどに尊子が暗かった、という仮定をしたら、あのキャラクターが生まれたんです。
ーーなるほど…!最後にうまく漫画の話につながりましたね!
瀧波:いや、最初からそのつもりだったんですが。古典はいちいち話が長くなって大変なんですよ。
ーーしかし「暗部屋の女御」と呼ばれた妃、ってだけでかなり想像をかきたてられますよね、藤原尊子さん。なんでわりとスルーされてるんでしょうね?
瀧波:どこまでも存在感がないのが、尊子さんの宿命なんだなって…。
ーーううっ。
瀧波:でも私がネタとしてすくい上げたから、いいんてすよ。
ーー尊子さん、1000年待った甲斐がありましたね。
瀧波:だったらいいんですけどね〜。そんな尊子さんがどう生きたか、ぜひ『あさはかな夢みし』を読んで知ってみてくださいね。
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